いつも涙が出そうになる

大阪ストーリーチラシ

タイトルと写真とは直接関係はありませんが、濃密なつながりはあります。写真は映画のチラシ。友達ではありますが、わたしが尊敬する中田統一さんのドキュメンタリー「大阪ストーリー」のチラシです。凄い映画でした。一切の感傷を排してしかも自分の内蔵までをも人の前にさらけ出すような、静かでありながら強い意志と信念とに貫かれたドキュメンタリーでした。イギリスで1995年に劇場公開され、6月にBBCでゴールデンタイムに放映され10万人が観た(日本公開時のカタログから)という映画です。ご覧になった方もおありになるかも知れませんが、75分のこのドキュメンタリーをゴールデンタイムに流すイギリス、そしてそれを10万人の人々が観るというのはつくづく日本とは文化の成熟度が違うなあと思わされました。その中田さんがあるとき持ってきたのが新井英一という歌手の「清河への道」チョンハーへの道というCD。実に44分もの歌ですが、これがキツイのです。こういうものを感傷的になって聴いてはいけないと思うんですが、聴くといつも涙が出そうになるんです。声も説得力があるし。何よりも魂を揺さぶられます。落ち込んでいるときに聴くと、鼓舞されます。癒されたいときはハイフェッツでバッハの無伴奏。これがわたしの落ち込み定番。中田さんも新井さんも作品は私小説、ですがどちらも感傷的でないんですね。それは意図してセンチメンタリズムを排していると言うよりは、状況が感傷を許すほどに甘くないと言うことでしょう。そういう過酷な状況の下で真っ直ぐに生きることを強く求めている人たち。その姿勢がわたしの魂を揺さぶるんです。わたしがこういう状況下に生まれたらこうは生きられなかったろうな、という気がするからよけいにうたれます。新井英一、一度お聞きになってみて下さい。中田統一さん、もう映画は作らないと言っています。残念です。皆さんにお見せできません。じゃあ少し解説しろと思われるかも知れませんがそれは意味がないと思うのでやめます。およそ、評論とか解説とかはそれがいかに良くできていても、その対象を観たり読んだりしていることが前提となっていますから。前提なしに成り立っている芸術と、そこがちがいます。ですから見ていない人に説明することはやめておきます。出会いがなかったということで勘弁して下さい。
わたしは勉強嫌いな学生で教師にひとりも卒業後もお付き合いを続けるような方は居ませんが、成人してからお会いした土田貞夫という人とは親しくさせて頂きました。「非在の響き」という著作のある音楽美学の学者でした。90過ぎてお亡くなりになりましたが、学芸大での最終講義は大勢の学生が詰めかけたそうです。その土田さんが最後にくれたはがきには「およそ芸術のことは、作ることが一番で、私のようにそれを評するなんてことにはあまり意味はない」と書かれていました。学者の最後の言葉としては寂しい限りですが、でもこれが、彼が九十年をかけて学問した結論だとしたら、それはそれで潔い言葉だと思います。私はこのはがきを寝室の壁にピンナップしています。

そんなわけでして、わたしは出会った方々からたくさんの力を得ているわけです。だからまじめに生きなくっちゃあ、とも思います。

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