HERB & DOROTHY
2011 年 7 月 31 日佐々木芽生という日本人女性が制作し監督したドキュメンタリー映画を見てきました。
ニューヨークの1LDKのアパートに暮らすハーバート・ヴォーゲルとドロシー・ヴォーゲルという、老夫婦の生活を綴ったドキュメンタリー映画です。
ただ、この夫婦が全米のアートシーンでは知らない人が居ない程のコレクターだというのがこのドキュメンタリーの核心です。
結婚以来40年、妻ドロシーの図書館司書としての給料を二人の生活費に充て、夫ハーブの郵便局員としての給料の全てを美術品購入に捧げてきた二人の生活をそれを買って貰った美術家達へのインタビューを軸に撮影されています。
彼等が作品購入に際して決めていたことは1:自分たちの給料で買える金額であること、と2:彼等の住むアパートに入る大きさであること、の二点でした。
それでも二人がその四十年間に収集した絵画、彫刻、その他のミニマム、コンセプチュアル作品の数は 実に4000点を超えています。買った当時無名の作家達は四十年後には有名になった人たちもかなり居て、値段も高騰して、それを譲って欲しいというコレクターや美術館も多々あったようなのですが、彼等は一切集めた作品を売ることはしませんでした。
ある作家は彼等のコレクションを表して「コレクションそのものが彼等の作品なんだからそれを一部売ると言うことは、わたしが私の絵を一部分切り取って売るようなもので、それでは作品全体が壊れてしまうから、それは出来ないのだ」と説明していました。
映画の宣伝コピーによればその1LDKのアパートには「楊枝一本の隙もない」ほどコレクションで溢れていた、と書かれています
ドキュメンタリーはやがて二人がニューヨークのナショナルギャラリーへ全コレクションを寄贈する場面へ移っていくのですが、ナショナルギャラリーでも全てを収納することはできず、全米各地の50の美術館へ50点ずつ寄贈するという事になります。
ハーブとドロシーがニューヨークナショナルギャラリーに寄贈を決めたのは、そこが収蔵品を決して売らないという規約があったのと、入場料が無料であるという二点 でした。
ナショナルギャラリーの入り口壁面に巨大な説明書きがあり、そこにハーブとドロシーのコレクションであることが銘記されています。
巨大なこの壁の前に手をつないで立つ二人の後ろ姿が、映画のラストシーンです。
私はこの映画に、異常に感動しました。
ただその感動がなんなのか、はっきりわからないのです。
分かることはこの感動の種類が、名演奏を聴いた時や、素晴らしい美術品に出会ったときの感動と一緒なのだということ。
おすすめしたい映画です。